節目となった、今回の第50話。

週刊ヤングジャンプではカラー扉となっていますね。
二か月半振り12度目のカラー扉です。

これまでの扉絵では、作風を表すような不気味な描写が多くありました。
ところが今回の扉絵は、過去のものよりも抜きん出ているように見えます。

館の一室でくつろぐケイトと脇に立つエミリコ。
椅子の色と窓の形からみて、多分ケイトの部屋ではないでしょう。
作中ではステンドグラス風の窓は出てきていないので、我々が目にしたことのない部屋なのかも知れません。

しかし何よりもこの絵の中で目を引くのは、異様な様子の二人です。

目元が隠れ、どんな表情をしているのか分からないエミリコ。
右足がテーブルの脚と重なっていて、より不気味さを引き立てています。
一瞬見てはいけないものを見た気がして、背筋が凍りました。

対して、いつものように凛とした様子で椅子に座るケイト。
しかしカップに注がれていたであろう珈琲を、何故か床に打ち捨てています。
相対する人物に拒絶の意を示しているようで、居心地が悪くなってきました。

そして絨毯に広がる珈琲の黒さが、題名をくっきりと浮かび上がらせます。
得体のしれぬ黒い存在が跋扈する本作品を、象徴しているかのようです。


ただこの扉絵。穿った見方をすると、ケイトの決意表明とも受け取れます。

本来は“顔”である筈のエミリコの表情を見せず、シャドーにとっては何物にも代えがたい偉大なるおじい様のすす珈琲を、惜しげもなく床に捨てる。

もはや生き人形を掟に縛らずとも、そして『すす珈琲=偉大なるおじい様』なんかいなくても私達はやっていける、というケイトの声が聞こえてくるかのようです。

館側の人物からすれば、ケイトの行動は純然たる宣戦布告にしか見えないでしょう。覆水盆に返らず、とは言いますが、こうなってしまったらもう後戻りはできません。
あとはひたすら、前に突き進むだけです。


前回、対峙する相手から歴然とした“格”の違いを見せつけられたケイト。

しかし今回のお話は、毅然とした彼女にふさわしい反撃が繰り出されました。
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面白いものを見つけちゃったとばかりに、ケイトの手紙を開封するスザンナ。
どこから取り出したのか分からないメスで、鮮やかに事を進めていきます。

確かにジョンに渡したはずの手紙が、何故スザンナの手中にあるのか。

スザンナが嬉々として手紙を読み始めようとした瞬間、ケイトはようやくそのトリックに気が付きました。


時を同じくして、生き人形の待機室でもトラブルが起こります。

手を滑らせたのか、エミリコが皿を割ってしまったのです。
おまけに指からも血が出ています。

怪我をしたエミリコの手を確認するスージー。
冷や汗を流しながら、エミリコは笑顔で大丈夫と答えました。

台詞の文字がか細いので、エミリコが緊張しているのが読み取れます。
それもあって、笑顔もひきつっているように見えますね。
エミリコとしては、やらかしてしまったという焦燥感でいっぱいでしょう。
無理矢理エミリコを座らせた、怪しげなスージーの笑顔が思い出されます。

ところが、エミリコの手を取るスージーの顔は純粋な心配顔に見えます。
小さいコマですが、前回漂わせた不気味さは微塵もありません。

これは一体どういうことでしょうか?
エミリコも、救急箱を持ってくるために退室したスージーを見て疑問顔です。

しかし、何はともあれこれはチャンスです。
ラッキートンネルならぬ、ラッキーお皿割りがエミリコに到来しました。

この好機を逃さんとして、エミリコはショーンに話しかけます。

同じ班のルウではなくショーンを選んだのは、主人のジョンとルイーズのことを念頭に置いてのことだと思います。ちゃんとケイトの計画を理解して実行しているところに、エミリコの成長が垣間見えますね。


さて、ここでエミリコが切り出したのは、あのお披露目での戦友・ラムのことでした。

庭園迷路で三人は、少なくない時間を共有しました。
特に第31話は和やかな雰囲気が溢れており、今となっては何もかもが懐かしいです。

それにこの3人は、深夜の見廻りでも行動を共にしています。
打ち解けたのは最終日でのことでしたが、それからお披露目までの2日間は、エミリコとラムにとってかけがえのない時間でした。

それはショーンにとっても同じ筈です。
ましてや第33話の冒頭で3人は、手を交わして再会を誓い合っています。
あの時号令を掛けたのは、ショーンでした。

そのことを思い出したのか分かりませんが、思案しながら沈黙するショーン。

しかしその後の彼から出た言葉は、出会った当初によく繰り返していた
「余計なことを考えるな」という一言だけでした。

ショーンの中に葛藤や困惑があったのかは分かりません。
部屋の外だから警戒しているのか、はたまた洗脳が進んでしまっているのか……

それを確かめるようにエミリコは食い下がり、とうとうシャドーハウスに対して疑問を挟みます。シャドーハウスのルールはおかしい、と。


ところがこの瞬間、ショーンとルウの表情が一変しました。


眉間にしわを寄せて睨みつけるショーン。
頬を強張らせて射竦めるルウ。

その彼らの瞳は、すす珈琲で洗脳された時のエミリコと同じ、黒くぼんやりとしたものに豹変していました。

あまりに異様な二人に気圧されるエミリコ。
それも当然でしょう。読者は何度か見た光景ですが、エミリコは初めて目にしてしまったのですから。

エミリコは恐怖と悲しみで涙を浮かべ、思わず
「私のこと…嫌いになっちゃいましたか?」と問いかけます。
エミリコの澄んだ瞳は、ショーンとルウの曇った瞳をことさら強調しているようです。

しかし二人は、スッと沈黙したかと思うと、一瞬で元に戻りました。
いつもと同じ、ナイスガイのショーンと美少女ルウです。

まるで見間違いか悪い夢を見たかのようです。
二人の様子に何が何やら分からず、エミリコは座り込んだまま二人の背中を見送りました。


場面は変わり、再び ケイト VS スザンナの攻防戦へと移ります。

ケイトの手紙を黙読するスザンナ。
張り詰めた空気の中、ケイトからは煤が出ています。
彼女の計画が明らかになればあっという間に『処分』ルートは確定です。
スザンナは直後に笑い出しますが、その笑いが何を意味するのかまだ分かりません。

しかし少しすると、より一層スザンナは笑い声を上げました。
笑うというよりも、吹き出してしまっているようです。

実は、ケイトが手紙に書いていた内容はたわいもないことだったのです。
それを読んで面白いとスザンナは笑っていたのです。

ただ勿論、それだけでは終わりません。
スザンナはそのたわいもない手紙を、なぜ隠れて渡すのかケイトを問い詰めました。長身のスザンナに、壁際まで追い込まれるケイト。
いわゆる一般的な用法でいう、壁ドン状態です。

細かいところまで抜け目ないスザンナ。しかしケイトには想定内でした。
いつもの聡明な、名探偵ケイトの登場です。

①ケイト・ジョン・ルイーズの周りに煤がまとわりついている。
②これはスザンナの煤に違いない。
③スザンナは煤が触れたものが分かる能力があるのではないか。
④だからケイトが手紙を移動させた時気付いた。
⑤しかし何をジョンに渡したかまでは分からなかった。
⑥だからさっき「何」を渡したのかと聞いたのだろう。
⑦すなわち、手紙だと分からなかったに違いない。

よってスザンナのすす能力は、手と同じような『感触』を持っていると断定したのです!

流れるような筋立てで推理を披露するケイト。
数少ない手掛かりで、あっという間に星つきの一人・スザンナの能力を丸裸にしました。
しかもその後、試すようなことをして申し訳ないと、謙虚に謝ります。

完璧です。
スザンナは賢いケイトを抱き締めて、思い切り擦りました。
ひとまずこの場を乗り切って、ケイトはため息です。


ところでこの場面、スザンナの胸中が分からないので何とも言えませんが、仮にケイトがすす能力について暴いたことを気に食わなかったとしたら全く違う様相を呈します。

そのことをごまかすために、あえてケイトを猫可愛がるフリをしたとも捉えられるからです。そして恐らく、ケイトの謝罪もポーズでしょう。

互いが互いを探り合う、狸の化かし合いだったのかも知れません。

さて、一段落してスザンナは、含み笑いをしながらジョンに手紙を返します。
心して読むようアドバイスもしました。そのスザンナの言葉に戸惑うジョン。
しかし手紙の内容はまだお預けです。

なぜならこのあと、あの星つきのリーダー・バーバラ&バービーが修練の間に入ってきたからです。

大量の煤をまき散らしながら、シャドーに「出ていけ!!!」と叫ぶバービー。
生き人形に命令されたとあって、ルイーズは困惑します。

それに対し、スザンナはバービーは特別だと諭しました。

バーバラが星つきで、そしてそのリーダーである所以。
それは、自身でも制御できないほど噴出する大量の煤だったのです。
その量は、なんとシャドーハウス全体の6割。

その事実に驚愕するジョン。『王』への道の遠さを感じたのでしょうか。
これこそが何にも勝るシャドーハウスという館への貢献であり、偉大なるおじい様への『奉仕』です。
それを新成人たちに見せながら、スザンナは「美しい」と語りました。

これもまた、この館が持つ狂気の側面といえましょう。


様々な出来事をお互いが持ち帰り、ようやくケイトとエミリコは部屋に戻ってきました。
ここは二人だけの空間ですので安心です。一応警戒はしますが、二人は今日あったことを語り合います。

ショーン達のこと、スージーのこと、手紙を奪われたこと……

そしてここで、とうとうジョンへの手紙の中身が明かされました。

「私ジョンのこと嫌いよ」

あまりにド直球な宣告に落ち込むジョン。しかもその後、ショーンの方が優秀だと綴ってあったこともあり、ショーンは八つ当たりされます。
思わずショーンを怒鳴りつけるジョン。

しかしこれもケイトの計算の内でした。
スザンナにジョンと仲が悪いことを思い込ませること。
そしてここでは描写されていませんが、もしかしたらまだ洗脳が解けていないショーンを遠ざけるために、あえてショーンを褒めるような文言を加えたに違いありません。

部屋中に立ち込める煤。これもまたケイトが敢えて出させたものです。

手紙にはっきりと浮かび上がった、本当のメッセージ。
それを見てジョンは、分かりやすいくらいに歓喜します。

見事ケイトの作戦は成就しました。ひとまず第一段階はクリアです。


前回ラストのスザンナの横顔と対比するように、不敵に笑うケイト。
同じように腰に手を当ててケイトの真似をするエミリコも、完璧な“顔”をしています。

いよいよ本格的なケイトの反撃開始です。
この最強コンビが、次にどんな手を打つのか……。

これからもケイトが繰り広げる頭脳戦に、期待大です!