合流劇と書きましたが、第30話の話ではありません。
ここで取り上げるのはもっと前、第27話の出来事です。

深夜の見廻りを経て、今現在も苦難を共にするエミリコとラム。

この二人が再び行動を共にしたきっかけは、互いが互いに会いたいと思って歩いていたからでした。

なんと素晴らしい関係でしょうか。
例え“お披露目”という舞台でも、彼女達には『蹴落とし合い』などという言葉は似合いません。
“お披露目” が終わった暁には、友達どころか『戦友』と呼ぶ間柄になっていることでしょう。

まるで運命を思わせるような、エミリコとラムの合流劇。
ところが、よくよくこのシーンを見てみると、実はかなり危うい綱渡りだったことが分かりました。


※この記事は連載時の情報をもとにした記事のため、単行本第3巻で描き直しされている内容を含みます。
あくまで、『当時はこんな見解があった』といった風に見て頂けますと、幸いです。
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まず第29話の扉絵を見てみましょう。
二人が合流したのは、スタート位置から見て右側にある丁字路です。

これは、第27話の5ページ1コマ目(エミリコが「なんちゃって!」と言っているコマ。可愛い。)にも図付きで書いてあります。
ラムとエミリコが、道の反対側から真正面に鉢合わせている図ですね。

ところが、その直前のばったり遭遇しているコマ(4ページ目最終コマ)をよく見てみると、エミリコが立っているのは、丁字の上横線の部分です。
その位置で、脇道から出てきたラムと会ったわけですね。

ですがこれ、図にしてみると少しおかしいです。

そもそも、互いが真向かいから歩いてきたという状況ではありませんし、遭遇シーンを信用するのであれば、ラムは一体どこから出てきたんだということになります。

このシーンを地図に書くと、以下のようになります。(下図参照)

合流1

エミリコが歩いていた左の路地からラムが出てきたので、こうなります。

やっぱりどう考えてもおかしいですね。
第27話の5ページ目の図とは合いません。

合わないどころか、エミリコは全く真逆の方向から来てますし、ラムに至っては全然明後日の方向から歩いてきてます。

これはただの描写ミスでしょうか。
でなければ、第27話の図に描かれていない二人の行動があったのでしょうか。


色々考えた結果、二人がばったり遭遇したシーンにぴったり合うシチュエーションが一つだけありました。

それは、"合流前に二人はすれ違っていた"、という状況です。

かなりややこしいので、まずは以下の図をご参照下さい。

合流2


順を追って説明しますと、まず①の図で、ラムは合流地点に先に到着します。
この時、エミリコはまだ到着していません。
多分荷車を押している分、歩くのが遅かったのでしょう。

次に②です。
ラムが横道に入ります。合流シーンでラムが立っていた道です。
こうなると、丁字路にエミリコが到着してもラムの姿は見えません。
当然エミリコはこの丁字路を通り過ぎます。
すれ違いの発生です。

③は、そのまま二人とも先へ進んでしまった状況です。
二人がどこで入れ違いに気付いたのかは分かりませんが、まあそんな先ではないでしょう。
気付いた時点で、二人とも来た道を戻ったのだと考えられます。

④で、めでたく合流です。
こうすれば、合流シーンと矛盾のない図になります。


以上が、エミリコとラムの合流の顛末です。

同じ方向を歩いていたら偶然会えた、という次元ではないですね。
むしろ二人揃って、割と必死になって相手を探していたのではないかと思えてきます。
よくもまあ、無事に合流できたものです。


もちろん、もしかしたら入れ違いとまではいかなくて、ラムが横道の辺りでうろちょろしてただけとも考えられます。
ただ、それはそれで、ラムの迷いが垣間見える行動ともいえるでしょう。

実際にラムは、自身が一緒にいるとエミリコは迷惑ではないかと自問しています。

ここで長い時間逡巡した結果、エミリコと共に荷車を押す名場面に繋がったと仮定すると、この合流シーンがもっと重い意味を持った場面に思えてきます。
ラムが前を見据えて話す描写が、より一層劇的に感じられますね。


さらっと描かれていた二人の合流シーン。
以上、実はこんな隠されたドラマがあったのでは…、という考察でした。